人工林を放置すると起きる問題とは?

相続した人工林の扱いに困り、放置しているという方は、トラブルが生じる前に早急な対処をおすすめします。

放置し続けていると、以下のような問題に発展しかねません。

  • 人工林の植生が荒れて生態系が崩れる
  • 雨や台風時の土砂災害リスクが大きくなる
  • 花粉症など健康被害が生じることがある

ここでは、上記3つのトラブルの詳細とともに、人工林を相続したときに最初に取るべき行動についてご紹介します。

人工林を放置すると起きる問題

日本の森林は、大まかに分けると天然林と人工林の2種類があります。

人工林は育成林とも呼ばれる、木材の生産目的で人工的に苗木の植栽や種まきを行ったり、間伐を行ったりする森林のことです。

日本の森林のうち、約4割が人工林に分類されます。

戦後に住宅需要を見込んで急激に増加しましたが、現代では適切に管理されないまま放置されている人工林が少なくありません。

人工林を放置していると、次のような問題が起こりやすくなります。

林内が暗くなりすぎて植生が荒れる

人工林の特徴は、単純に植栽するだけではなく、必要に応じて下刈り・枝打ちなど木を健康に育成するための作業も含むことです。

下刈り・枝打ちによって日光が地表に当たり、根を丈夫にします。

適切に管理されていない人工林は枝が伸びたり木と木の間隔が不適切だったりと、降り注ぐ日光を遮りやすくなるため、林内が暗くなります。

暗くなった林内は特定の植物が枯れる病が蔓延するなど植生が荒れるため、それまで生息していた植物や生き物が見られなくなるなど、深刻な問題に発展しかねません。

植生が荒れた結果、土壌がゆるくなり災害が起きやすくなる

地表に十分な日光が当たらず、植生が荒れると、土壌にも影響が出ます。

木の根が十分に育たなくなることから、雨や台風が発生したときに水を十分に吸うことができなくなります。

根が育っていない土壌は支えてくれるものがなく、雨や台風の日に水分も過剰となれば、土砂災害が発生しやすくなるため非常に危険です。

中には「木を適度に切れば良い」と間伐のみ行って切り取った木をその場に残していく人もいます。

伐り捨て間伐と呼ばれ、せっかく木々の間から日光が差しても、捨てられた木が邪魔をしてしまうため意味のない行為となります。

植生を荒らすだけではなく、残された木は土砂災害時に流されて近隣へ迷惑をかけるおそれもあるため、間伐した木は必ず適切な処分が必要です。

事実、2019年に発生した台風15号による千葉県の大規模停電が長期化した原因は、放置された山林から流されてきた大量の倒木にありました。(出典:日本経済新聞

伐採されない木が花粉症の原因となる

戦後の住宅需要を見込んで人工林に大量に植栽されたのが、スギです。

20年近くかけて全国各地で育ったスギがやがて花をつけ、毎年のように大量の花粉を発生させた結果、1970年ごろから花粉症に悩まされる人が増えてきました。

数ある種類の中からスギが選ばれた理由は、育ちやすく加工しやすいため、戦後の荒れた土地に緑を増やしながら木材需要をまかなうことができるためです。

林野庁の資料によると、平成29年(2017年)の国産材の素材生産量のうち、スギは57%を占めていました。(出典:林野庁「森林・林業白書」

スギを植栽する人工林は東北や九州、関東を中心に全国に点在しており、地域によっては9月頃から翌年5月頃までスギ花粉が発生します。

放置された人工林に伐採されないスギなど花粉の原因となる木が残り続けると、多くの人が今後も花粉症に悩まされるでしょう。

相続した際は名義変更と地籍調査の実施を

人工林の所有権を持つ人の中には、知らないうちに親戚や親から相続したという方もいるのではないでしょうか。

相続した人工林を含む土地は、まず名義変更と地籍調査を行う必要があります。

多くの人工林が放置されたままとなっている原因のひとつは、所有者の名義変更が正しく行われず、現在の所有者が分からないことです。

行政や専門家などに処分や管理を依頼する場合も、まずは自分が所有権を相続したことを証明しなくてはなりません。

人工林を含む土地の名義変更は、「所有権移転の登記申請」を行うことで手続きされます。

各手続きの届け出先は、以下のとおりです。

  • 名義変更(所有権移転の登記申請)…土地の最寄りの法務局
  • 地籍調査…土地のある市町村役場
  • 所有者の届出…土地のある市町村長

「所有権移転の登記申請」は、前の所有者(被相続人)と新しい所有者(相続人)それぞれの戸籍謄本など、必要書類を揃えて法務局へ届け出てください。

しかし、中には届け出ようと思っても所有する山林の明確な境界が分からないケースもあります。

境界を記す字絵図(あざえず)は明治時代あたりのものが使用されているため、所有する山林の正しい位置や面積を知るために、地籍調査で改めて明確な境界線を調べることをおすすめします。

地籍調査は住民の依頼や必要に応じて既に役場が実施している場合もあるため、事前に問い合わせておきましょう。

既に調査を終えている場合は、登記所に正式な登記簿が残されています。(調査から20日以内であれば市町村役場で閲覧できることもあります)

また、名義変更や地籍調査の他にも、山林を相続した場合は、相続した日から90日以内に該当する山林のある市町村長へ「所有者の届出」を行う必要があります。

まとめ

相続した土地や山林に人工林が含まれる場合、放置せず適切な管理を行いましょう。

人工林も他の土地などと同様に、相続した瞬間から管理義務や責任が生じるため、万が一土砂災害などで近隣住民を巻き込んだ場合、賠償をしなくてはならない可能性があります。

トラブルが生じる前に、行政や専門家へ処分や管理を依頼することをおすすめします。

依頼時には所有権を証明する必要があるため、事前に名義変更(所有権移転の登記申請)や地籍調査も必要です。

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